Lambent インタビュー 井上素行③
ラムベントインタビュー、井上素行の最終回です。
演じる上で大事にしていることや、劇団時代に味わった挫折など赤裸々に語っています。
「素(す)」の井上素行を感じて頂ければ幸いです。
舞台で光る『市ヶ尾の坂』
―私は今、稽古をしていく中で新たな発見が色々生まれているのですが、井上さんは稽古を通してこの『市ヶ尾の坂』という作品をどのようにとらえ感じられていますか?
初見では気付けなかった面白さがたくさんあります。この作品は本を読むよりも演劇にしたほうが面白いものなんだなって。きちっと自分たちが理解してやれば面白くなると思いました。最初に読んだ印象って大事で、最初に読んで面白いと思ったらやりたいって思うことが多いんですよ。でも最初に読んだ時は面白くないとは思わなかったんですけど、どうやったら面白くなるのかってわからないところがたくさんあって。でも今は面白い、岩松了さんの傑作戯曲だって言われている理由がよく分かるなって思います。
―ところで井上さんは将棋が大好きで、ご自身も対局されたり名人戦も観戦に行かれたりするとのことですが、大好きな棋士の対局と大好きな劇団の公演の日取りが重なったらどちらを取りますか?
将棋(笑)演劇は見るものじゃなくてやるものだから、自分の中で。
―では、ご自身の芝居の課題点は何ですか?
ずっとここ数年は受け芝居ということに重きを置いているのですが、それが逆に受けよう受けようという過剰な意識になってるなと気づいたんですよ。受けよう受けようと思うのではなくて、もっと自然体で受け取り自然体で受け流し自然体で返す、ということができるようになりたいし、ならなきゃいけない。特にこの隼人という役は。人との適切な距離感というものを大事にしている役なので、自然体ということを意識したいなって。見ている人に、あの人濃い芝居をしてるなって思われないようにしたいですね。今までは自分が感じたい。自分が受け取り自分が返したいっていう気持ちが強すぎるんだと思うんですよ。その強すぎる気持ちを自分の中で柔らかくして、マイルドにして。表現したいというか表出したい。
劇団での「冬の時代」とその後
―今までお芝居に関わってきた中で印象的な芝居作りのシーンは?壁にぶつかったときにどう切り抜けたのかなど教えてください。
今まで自分が役者として一番苦しかったのは、劇団入って1年目の終わりから2年目の中頃にかけてが一番苦しかったんですけど。研修生の時はすごく自分に自信があったというか自惚れていたんですよ。実力以上に自分はできるというふうに勘違いをしていたんです。というのも研修生の頃はずっと主役をやらせて頂いていて、研修生だったんですけど劇団の本公演にも出させていただいて。すごく充実していたというか。アンケートを読んでもすごく自分のことを褒めてくれるアンケートが多かったりして。オレは出来るんだって、すごく天狗になっていました。実際全然できなかったんですけど、そんな時期があったんですね。で劇団に上がって、先輩の山口勝平さんのアンダー(代役)につかせて頂いたんですよ。それってすごく光栄なことで、期待されてる新人みたいなふうに見てもらっていたんだと思うし、自分自身も自分のサクセスストーリーの一部なんだっていうふうにまたそこで過剰に思ってしまって。でも実際実力ないわけです、そんな自分が思っているほどの実力は。そのことで先輩から色々叩かれたというか。調子に乗っていた自分が悪かったんですけど。色々言われたり、自分自身も代役やらせていただいていたけど、「代役だからこのシーンの稽古やってもしょうがないよね」みたいなことを言われたりして自分がどんどん落ち込んでいって。今度は自分はなんにもできないって逆に反動で思うようになった時期があって。その頃は本当にもう、稽古場に行こうと思うと過呼吸になって苦しいみたいな、そういう時があったんですよ。
でしばらくやっているうちに自然と浮上してきたんですけど、その浮上している途中の時期に先輩に言われたのが、自分の実際の実力と自分自身に対する自分の評価が釣り合ったときにまた一つ成長できるよというお言葉を頂いて。ああそうかと。だから変にできないできないと思うのも良くないし、自分の出来るところは出来るところとして認めて、まぁ出来るところなんて少ないんですけど。出来ない自分もそれはそれでちゃんと認めて、どういうところを伸ばしていけばいいのかということも考えていかないといけないなって。努力していかないといけないなって思ったのが印象的なシーンですね。
―芝居をはじめた頃と今現在で芝居に対する心境の変化はありますか?
芝居が好きってところは変わってないし、芝居を続けたい芝居に携わってたいというところはずっと変わってなくて。なんも変わってないんじゃないかな、芝居に対する想いっていうのは。最初にやりたいなって思ったお芝居見た時から、人に見てもらって楽しい・感動する・心に残るっていうものを、自分がその時感じた同じような思いを他の人たちに感じてもらえるような自分でありたいというか。表現者で有りたいってことをずっと思っていて。変わってないと思います。
―では最後に井上さんにとってお芝居とは何ですか?
自分を苦しめる悪魔であり自分を救ってくれる神でもあるという、なんとも言い難い存在ですね。片思いなんじゃないんですかね、お芝居へ。
見た目の爽やかさからは想像し難い、芝居に対する強い熱意。
人に対しても芝居に対しても真っ直ぐな想い。
これら全てを内包しているのが井上素行の魅力だと、インタビューを通して感じました。
これは隼人の生き方にも通じる部分が有り、井上素行と隼人がどう共存してこのお芝居を成り立たせるのかも大きな見所の一つだと思います。
彼らが作品の中に生きる『市ヶ尾の坂』を是非ご覧下さい。