テラダシゲオ
テラダシゲオという演出家は井上にとって、芝居の指針を示してくれるプロフェッサーだ。
努力家で知識欲が高い。
様々な文献から演劇について学び、それを役者に噛み砕いて伝える。
知識に裏付けられた演出には説得力があり、役者を納得させ新しい境地に誘う。
テラダシゲオは先進性を重要視している。
常に新しい表現を求め挑戦し続けている。
劇場に砂を撒いたり、会議室でオーロラを見せたり、最小限の梁と柱で日本家屋を表現したりなどなど。
作品は「玄人好み」がテラダシゲオらしさだ。
しかしそれは重厚で味わい深い作品であると同時にライトな演劇ファンにとっては難解である場合も多かった。
だが、今回のテラダの挑戦は「ライト層にも玄人にも楽しんでもらえる作品作り」だと井上は見ている。
「アプローチ アプローチ コンフリクト」はとある研究所から実験動物のラットが逃げたところから物語が始まる。
研究所にとって、それは大事件なのだが、職員の女性二人のやりとりが軽妙でバカバカしい。
そしてそれが熱い女の戦いへと変貌する。そのさまが大変面白い!
以前も書きましたが、わかりやすく笑えます(笑)
というのが一本目の「ラット 逃げる」である。
二本目の「ハバナのタクシー」はラット逃げるから5年後のお話。
「ラット 逃げる」に登場したある人物がキーマンとなって物語が展開する。
こちらは男の苦悩と葛藤を描いた重厚な作品。
テラダの言葉を借りれば「映画のようなかっこよさ」 があり、男臭さがあり、それでいてミステリアスであり。
今までのテラダ作品を見たことある人は「ハバナのタクシー」のほうがテラダらしいと感じるのではないだろうか。
二つの作品は全くテイストが違う。しかし、二つが合わさって「アプローチ アプローチ コンフリクト」なのだ。
甘さと辛さ。
一つの料理で二つの味を表現するのは極めて難しい。その難題にテラダシゲオは今回挑んでいる。
今作品も含めて井上はテラダ演出を三回受けてきた。
その度に演出手法を変え、試行し、新鮮でいてわかりやすい言葉で演出を付けていただいた。
この人の作品に出続けたいというのが、今の私の一番のモチベーションだ。
次の作品も、必ず面白い作品になります。
是非アビエルトで新しいテラダシゲオの世界をご堪能ください。